ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪(今野晴貴 著)読書メモ

公開日: : 最終更新日:2014/06/09 Book, NPO

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪


今日は、今野晴貴著、「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」(文春新書)の読書メモをお届けする。

何と言っても、本書の読みどころは、「ブラック企業の叩き斬り」である。冷静にかつ、時には企業の実名をだし、これぞとばかりに日本社会に与える影響を論じて断罪している本は、未だかつてなかったのではないだろうか。

その証拠に、まずは目次を御覧いただきたい。

  • 第1章 ブラック企業の実態
  • 第2章 若者を死に至らしめるブラック企業
  • 第3章 ブラック企業のパターンと見分け方
  • 第4章 ブラック企業の辞めさせる「技術」
  • 第5章 ブラック企業から身を守る
  • 第6章 ブラック企業が日本を食い潰す
  • 第7章 日本型雇用が生み出したブラック企業の構造
  • 第8章 ブラック企業への社会的対策

「ブラック企業」という言葉の多さたるや。ちなみに本書が話題になり、「ブラック企業」という言葉は、2013年の流行語に選ばれたのは記憶に新しい。

著者は、NPO法人POSSE代表・今野晴貴氏

本書の著者である今野晴貴氏は、NPO法人POSSE(ポッセ)の代表を務めている。POSSEは労働相談を中心に、若手の格差問題の解決などに、若者自身の手で取り組むNPO法人である。「若者自身の手で」とあるように、20代を中心に、40~50人のメンバーで運営されているそうだ。そんな若手の労働問題に日々向き合っている方が、今回強い思いを持って筆を取ったのである。

POSSE

ブラック企業の実態と影響

ウェザーニュース、ワタミ、SHOP99

第一章および第二章では、具体的な事例を出しながら、ブラック企業の実態を説明している。時には自ら命を断ってしまった例も。本当にこの章を読むと心が痛む。ウェザーニュース、ワタミ、SHOP99など訴訟になっている企業はもちろん、超大手グローバル衣料品販売X社(笑)という名前で、週刊文春等で話題になったあの企業の実態も紹介されている。

超大手グローバル衣料品販売X社

その某X社については、私は学生時代4年間アルバイトしていたこともあり、当時の社員さんの働き方を思い出し、すこし懐かしくも思えた。徹底したマニュアル主義の教育は、「洗脳」「軍隊みたい」って表現がまさにピッタリである。個人的には嫌いではないが、やはり合う合わないが大きく出るのであろう。実際イキイキ働いている社員の方も知ってるし、対して退職された社員さんも思い浮かぶ。

ブラック企業が日本に与える悪影響

すこし飛ぶが、第6章ではブラック企業が日本に与える悪影響が記されている。1つ目は「若く有益な人材の使い潰し」、2つ目は「コストの社会への転嫁」である。ブラック企業が若く有益な人材を精神疾患に追い込んだ場合、ブラック企業の代わりに社会が担うコストは計り知れない。鬱病疾患の医療費コスト、若年過労死のコスト、転職コスト、少子化コスト、ざっとあげるだけでもキリがない。「鬱病⇨働けない⇨生活保護」という悪循環を生み出してしまうのも、その一例だろう。若者自身にとっても、大学時代に負った奨学金という”借金”を背負っているにも関わらず、不本意に働けなくなれば、転落するしかないであろう。
Nayami

ブラック企業の分析

筆者いわく、「ブラック企業の指標は、大量採用・大量離職の実態にある」としている。その上で第三章では、ブラック企業をパターン別に分類しています。

ブラック企業のパターン別

  1. 月収を誇張する裏ワザ
  2. 「正社員」という偽装
  3. 入社後も続くシューカツ
  4. 戦略的パワハラ
  5. 残業代を払わない
  6. 異常な36協定と長時間労働
  7. 辞めさせない
  8. 職場崩壊

筆者は上記のようにブラック企業のパターンを分析している。もちろんこれらのパターンは重複することもあるという。パターンの内容は割愛するが、本書を読むまで、私はブラック企業を「5.残業代を払わない」と定義し考えていた。そう思っている方も多いと思う。しかし実際はパターンは様々であり、一概に「ブラック企業」を定義することはなかなか難しいと筆者も後半で語っている。

ブラック企業の辞めさせる技術

第四章では、具体的にどうやってブラック企業が、若者を辞めさせるかを説明している。本章の前提条件として、重要なのが「退職」と「辞職」と「解雇」の違いだ。解雇はともかく、法律上の「退職」と「辞職」の違いを明確に理解している人は少ないのではなかろうか。

  • 退職…労働者使用者合意による契約の解約
  • 辞職…労働者からの一方的な解約
  • 解雇…使用者からの一方的な解約

ブラック企業は、「辞職」(労働者が一方的に辞める)、もしくは労働者を追い詰め、自己都合退職の書類に印を押させ、「退職」(双方の合意という形)になるよう、戦略的かつ合理的に労働者を誘導していくというのだ。なんとおそろしいことか。ここの部分では背筋が凍る思いがした。
Black

ブラック企業からどうやって自分を守るか

戦略的攻撃には、戦略的防御を

さて、このように戦略的に若者を追い詰めるブラック企業であるが、そんな”妖怪”からどうやって身を守るか、という問いに対して、筆者はこう答えている。

ブラック企業に入社してしまってからは、鬱病になる前に、辞めるか争うかを選択するしかない。そこには「我慢していれば報われる」などというウェットな感情の入り込む余地はない。そしてもしも、ただ我慢しろというだけならば、それは思考停止だというほかない。必要なのは冷徹なまでの「戦略的思考」なのである。

すなわち、ブラック企業が戦略的に追い詰めてくるのであれば、労働者は冷静に戦略的に考え、身を守るしかないと。労働法や専門家の活用など具体的な対策話も記載されているが、本質的には戦略的思考を持った一人ひとりが集まり、ブラック企業を変えていく力を持った団体として、交渉すべきだ、筆者は述べている。気になる方はぜひ詳しく本書を確認していただきたい。

ブラック企業を生み出したのは?

本書で一番興味深い章は、第7章 日本型雇用が生み出したブラック企業の構造だと思う。なぜ日本にブラック企業が生まれ、蔓延るようになったのかを解説している章である。

日本型雇用がブラック企業を生み出した

筆者は、これまでの日本型雇用が引き継がれ、悪用されたことにより、ブラック企業が生まれたとしている。諸外国と比べ、従来から日本企業の労働者に対する「命令の権利」は強い。なぜなら、終身雇用と年功序列と引き換えに、柔軟に命令を引き受けるという風習があったからだという。

長期雇用を維持するためには、業務の変更などに柔軟に対応する必要があるため、社員の配置換えや業務時間変更など、企業は必然的に命令権限が必要になる。労働者は終身雇用と年功序列と引き換えに、企業からの強い命令を積極的に受け入れてきた、というのだ。

終身雇用と年功序列は失われ、強い「命令の権利」だけが残った

しかしご存知のように、昨今の日本において、終身雇用と年功序列は既に形骸化している。身を粉にして働いても、退職そして老後まで企業は面倒を見てくれない世の中だと言われている。日本型企業が従来持っていた、強い「命令の権利」が残り、その権利を”悪用”しているのがブラック企業なのだ。その意味で、すべての日本型企業はブラック企業になりうる、と筆者は指摘する。ブラック企業問題は日本型雇用の変容なのだと。

社会として、どうブラック企業に向き合うべきか

現状認識を改めよ

本書が出版されるまで、上記に挙げられる雇用問題は、「若者の意識の変化」が原因として捉えられがちだった。たとえば、「ゆとり世代」や「ニート」という言葉で問題を矮小化されがちだった。その現状認識を改め、「ブラック企業」問題であることに目を向けることが、社会的対応の第一歩だと言う。

業務命令を制約するという政策

先に述べたとおり、日本型企業から引き継いだ、強大な「命令の権利」がブラック企業の根源である。そのため、その「命令の権利」・業務命令を制限する政策が必要、と筆者は主張する。実際EUでは、最低休息期間についての制度が整備されており、退社してから次の出社まで、最低連続11時間の休息を義務付けているらしい。

若者自身はどうする

繰り返しとなるが、若者は戦略的に行動し、証拠を掴んで、団体訴訟/交渉することが大切であるという。若者自身も戦略的に「ブラック企業を監視・統制し、新しい労使関係の「制度」を構築していく必要があるとのこと。

所感

いかがだっただろうか。本書は全体から、「筆者のブラック企業に対する挑戦」がにじみ出ていると感じた。躊躇なく断罪し、歯切れのよい文章が読んでる者を引きこませる。そんな一冊だと思う。

実際昨年の流行語にも選ばれ、ブラック企業という問題は広く認知されたように思う。少なくとも「雇用問題」の要因の一つとして、ブラック企業の存在があるということは、本書に続くマスメディアの働きによって、広く認知されたと思う。この意味において、本書は意義深く、著者の面目躍如と言えよう。

確かにすぐさま「ブラック企業だ!」と断罪すれば、身動きが取れず、企業活動自体が停滞するという意見もある。しかし実際に約三万人の自殺者がいる日本においては、猶予している暇はない。政府はもちろん、働く人一人ひとりが企業の暴走を止めるしかない。松下幸之助は「企業は人なり」と言ったが、企業を動かすのも止めるのも、また人なのだと思う。まだブラック企業問題は、まだ認知されただけの段階である。一人ひとりの労働者が「戦略的」に考え、行動することが求められている。

関連はブラック企業を周りのものを挙げておきます。興味があれば覗いてみてください。ではでは。


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